ライ麦畑で倒れ伏す 2nd Season

水平線に恋をして、また船に乗りたい元内航船員のブログ

船員と酒

昨年末に商船三井客船の「にっぽん丸」がグアム出港時に桟橋と衝突事故を起こした。
船長の呼気からアルコールが検出され、飲酒状態での操船が疑われている。

 

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それに関連して、海上保安庁が2017年までの5年間で船舶事故を起こした10,592隻のうち、53隻の船員に飲酒したことが確認されたと発表した。割合にすると0.5%である。*1
集計方法などが異なるので一概に比較はできないが、交通事故における飲酒事故の構成比率と近い数字である。

 

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船乗りと酒はある意味で切っても切り離せない存在だ。乗船生活は色々と制約が多く、どうしてもストレスが溜まってしまう。その割には案外と暇を持て余す。となると、嗜好品を求めるのが人間の性というものだ。
酒は船乗りにとっては日頃のストレスを発散させ、無聊を慰めてくれるものなのだ。

と言うと、そんなものは言い訳だ、そもそも乗り物を動かす職場にも拘わらず酒を持ち込むこと自体けしからん、と仰る生真面目な人もいるかもしれない。しかし、船が他の乗り物と決定的に異なるのは、乗組員が一年の大半をそこで生活を送る場でもある、ということだ。問題なのは飲酒そのものではなく、あくまでも酒気帯びの状態で職務に就くことである。要は節度を持って飲酒すれば問題ないのだ。

とはいえ、そのあたりの加減を上手くできない人がいるのもしばしばである。事実、俺も二日酔いでまだ酒の匂いが残る状態で当直に出てくる船員を何度も見たことがある。

思うに、そういった人はストレス発散や暇の潰し方があまり上手ではなく、ついつい酒に頼ってしまうのではないかと思う。

そうならないためにも、これから船員を志す人や、船乗り学校の学生さんたちには、今のうちにインドアでできる趣味などを見つけておいてほしいと思う。

最後に、冒頭にあげた「にっぽん丸」の事故だが、船長の飲酒を事故の主因と考えるのはまだ早計だと思うよ。
基本的に操船は船長だけではするものではないし、入出港時には他の航海士も船橋にいるし、水先案内人だっているんだから、あまりにもおかしな操船してたら普通は誰かが気付いて指摘するからね。

*1:https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/insyu/info.html#kensuの「2.飲酒運転による交通事故の発生状況」より