ライ麦畑で倒れ伏す 2nd Season

水平線に恋をして、また船に乗りたい元内航船員のブログ

事故の原因はあざなえる縄のごとし

昨日のエントリが予想外にアクセス数があり、驚いている。Twitterを見ると、普段海運に関心のない層や、普段なら接点のない層にまで拡散しており、僅かながらではあるがあのエントリを書いた目的は果たせたかな、と感じている。

海難に限ったことではないが、ニュースになるほどの事故になると、とかく過怠を疑われたり、特定人の責任追及という名の糾弾に走ろうとする傾向があちこちで見られる。

実際にそうであれば単純かつ楽に解決するだろう。だが、現実の事故はもっと多様な要因と複雑な経緯を経て起こる。重大な結果をもたらしたものであれば特にそうだ。

リスク管理に「スイスチーズモデル」という概念がある。

これは、システムの様々な防護手段をスライスしたスイスチーズに見立てたもので、それぞれのスライスにはところどころに穴(脆弱性)が空いており、リスクはその穴を通り抜けてゆくが、それらを複数重ねれば結果的に穴は埋まり、リスクは事故に至る前に止まる、という考えかただ。

逆説的に言えば、事故というのはそれぞれのスライスの穴が大きかったり、重ねかたがうまくなかったりしたせいで、リスクが全てのスライスを通過してしまった結果ということだ。

事故の原因を突き止め、再発を防止するにはそれらのスライスを一枚一枚検証し、もう一度重ね合わせてみる、という作業が必要だ。それには多大な時間とコストがかかる。

しかし、世の人の大半はそのことを理解していないから、安易に考え、自分に責任がないのをいいことに好き放題放言してしまう。

もしあなたが事故の報道を見たとき、特に憤りを覚えたときはこのことを頭の片隅にでも置いておいてほしい。

悪意がない限り、望んで事故を起こそうという者はいないのだから。

関空連絡橋に衝突した「宝運丸」船主、清水 満雄氏の弁明は船員から見れば妥当なものだ

一昨年の話になるが、関空島沖合の錨地*1で乗っていたタンカー船が走錨*2しかけたことがある。

 

そのときは堺港で積込を行う前日に入港し、翌朝着岸して荷役を行う予定だった。

夕方から夜にかけて風が強くなるという予報があったものの、

*1:船が錨を下して停泊する場所

*2:錨の固定が外れ、船が流される状態

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まえがきに代えて

船乗りという仕事についてからかれこれ3年と少しになる。
 
 その間、自分の仕事について何か書こうと思いつつも一番最初の書き出しは何にしようか、と迷って結局書かない、ということを繰り返していた。さすがに4年目も過ぎたのでこのままではいかん、いい加減にしろ俺、と思ったのでとりあえず始まりの挨拶に代えて今回のエントリを書いた。
 
できるだけサボらないように頑張りますので、皆様どうか一つよしなに。